※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。
普段「社長」と呼んでいる組織のトップに対して、ウェブサイトや公式の文書などで「代表取締役」という肩書が使われているのを見かけることがあります。この二つの言葉にはどのような違いがあるのでしょうか。経営者の中にもこの違いについて明確に説明できる人は多くないかもしれません。今回は経営者として理解しておきたい、代表取締役と社長の違いをわかりやすく説明します。
なお、日本には会社の設立や組織、運営、解散などについて定めた会社法という法律があります。5章と979条におよぶ法律で、最新の全文は総務省の行政情報ポータルサイトe-Govにて公開されています。関連する条文を一読しただけでは法律独特の表現からわかりにくさ感じるかもしれませんが、一つずつ概念を整理していくと理解しやすいでしょう。
目次
代表取締役とは
「代表取締役」は会社法で定められた役職であり、株式会社を代表する取締役です。代表取締役は会社に1人だけというイメージが強いですが、実際には代表取締役を複数おくことも可能です。
「代表取締役」の選定
会社の中には取締役会を設置している会社(取締役会設置会社)と、設置していない取締役会非設置会社があります。
取締役会設置会社の場合は、取締役会の構成員である取締役の中から代表取締役を選出します(会社法第362条1)。
取締役会非設置会社は中小企業に多い形態で、この場合も取締役は存在します。代表取締役は創業時に作成する定款で定められた人、または定款で定められた方法(取締役の互選、株主総会の決議)で、取締役の中から選ばれた人が務めることになります(会社法第349条1)。
取締役会を設置する場合、しない場合、いずれにおいても代表取締役は1人だけである必要はありません。「代表」という言葉から、代表取締役は会社に1人だけというイメージを持ちがちですが、法律上は人数に制限がなく、代表取締役を複数おくことも可能です。取締役会非設置会社で複数の取締役をおく可能性がある場合には、この点も考慮した定款を作成します。代表取締役の人数を「1名以上」のように複数人にも対応できるような表記にします。すでに定款がある場合は変更することもできます。
「代表取締役」の定義
取締役会を設置するか、しないかによって選定の方法は異なりますが、代表取締役とは取締役の中から選ばれ、代表者として業務を執行する人のことを指します。
「代表取締役」が持つ権限
代表取締役には、単独で対外的に契約を結ぶ、裁判にのぞむといった代表としての権限があり、それは「代表権」と呼ばれます。これはあくまで単独での権限で、代表取締役が複数いる場合でも、意思決定にあたって全員の合意が必要というわけではありません。三井物産やトヨタ自動車など、代表取締役が複数名存在する企業はめずらしくありません。ただし代表取締役だからといって何でも単独で決定できるわけではなく、その行為は取締役会などの意思決定機関の決定に基づくものとなります。
「代表取締役」の任期
会社法332条1により、代表取締役をはじめとする取締役の任期は原則2年と定められています。しかし非公開の株式会社の場合だと、取締役の任期は最長10年まで延長することが可能となっています。なお、任期が満了した後に同じ人がそのまま再任することもできますが、その場合でも2週間以内に役員変更の登記をする必要があります2。
「社長」との違い
「代表取締役」が会社法で定められた役職であるのに対して、「社長」とは法律で定められたものではなく、あくまで商習慣上、会社の最高責任者を表す呼称です。社長は会社のトップとして業務を指揮します。このため、代表取締役が複数人存在する可能性があるのとは異なり、通常社長は一つの会社に1人だけ存在します。
代表取締役と社長は必ずしも同じ人物を指すものではありません。代表取締役と社長では役割も異なります。代表取締役ではあるものの社長ではない人、代表取締役ではないけれど社長だという人も存在します。
また、社長はあくまで会社内部の役職ととらえることもできます。社長のほかにも顧問、会長、専務、副社長といった役職がありますが、いずれも会社法で定められたものではなく、登記上はみな取締役となります。アルファベットで略記されるCEO(Chief Executive Officer、最高経営責任者)などについても同様です。
「取締役」との違い
代表取締役は法律的に会社を代表する権限である「代表権」を持ちますが、取締役には代表権が与えられていません。ですから、単独で社内外で意思決定したり、契約を締結したり、取引を遂行したりといった行為はできません。しかし取締役は、経営方針を助言したり、意思決定や戦略立案に関わったり、業務の遂行状況や役員を監督したりと、会社を運営する上で欠かせない役割を担っています。また、取締役は取締役会を通じて株主総会の招集、人事の決定、重要な財産の処分の決議なども行います3。
取締役会設置会社では取締役は3名以上(会社法331条1)でなければならず、取締役会非設置会社の場合は最低1名必要とされています(会社法326条1)。
代表取締役ではない取締役に対して、社長や副社長といった会社を代表すると受け取られがちな肩書を使う場合には注意が必要です。会社法354条1には「表見代表取締役」について、「株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う」と定めています。
社長や副社長とはあくまで業務上の役職にすぎませんが、代表取締役でない社長と、この社長に会社を代表する権限がないことを知らなかった「善意の第三者」との取引では、表向きにはこの社長が代表取締役に見えたものとして会社は責任を負わなくてはならないのです。そのため、代表取締役の選出や肩書を与えるにあたっては細心の注意を払う必要があります。
「代表取締役社長」との違い
代表取締役と社長は異なるものですが、一方で「代表取締役社長」「代表取締役CEO」といった肩書をよく見かけます。これは一体どういうことなのでしょうか。
会社における外部的、内部的な意思決定において意思決定者が異なると、混乱を招いたり、効率が悪くなってしまったりすることから、代表取締役と社長の両方を兼ねる人物が存在するケースが多くみられます。ただし、代表取締役は複数人いてもよいことから、代表取締役社長だけでなく、代表取締役会長や代表取締役副社長が同時に存在する会社もあります。多くはありませんが、会長が代表取締役会長となっており、社長に代表権がないような会社もあります。
誰にどのような権限や肩書を与えるのか、代表取締役は1人にするのか複数人にするのかは、事業の内容や組織の形態、企業風土と合わせて検討するとよいでしょう。たとえば、迅速に複数人で対外的な意思決定をしていきたい場合は複数の代表取締役をおくことも選択肢となります。共同創業者などがそれぞれ代表権のある代表取締役となることでより責任を持って職務にあたるといった効果も期待できます。逆に意思決定について明確に一本化しておきたいような場合は代表取締役を1人にしぼる方がよいかもしれません。
役職や権限の検討にあたっては、同業種、同規模、企業風土の似た企業の役員リストの肩書を参考にしてみるとよいでしょう。どのような組織構成が一般的なのかも見えてきます。
まとめ
本記事では、会社法で定められた役職である「代表取締役」と、普段何気なく会社のトップを呼び表すときに使われることの多い「社長」という言葉について解説し、それぞれの違いや、実際の使われ方を説明しました。
日常の会話であれば問題はありませんが、対外的に誤った使い方をしていると、会社法の表見代表取締役とみなされるなど思わぬトラブルに発展するかもしれません。本記事をきっかけに両者の違いを把握して、法律上の役職および商習慣上の呼称の明確化に役立ててください。
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この記事は2019年4月14日に公開しました。最終更新日は2025年3月13日です。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash