フリーランス保護新法を分かりやすく解説!施行後に変わること、対象者や罰則について

※本記事の内容は一般的な情報提供のみを目的にして作成されています。法務、税務、会計等に関する専門的な助言が必要な場合には、必ず適切な専門家にご相談ください。

コロナ禍を経て、働き方に対する価値観にも変化の兆しが見えます。わかりやすいものとしては、フリーランスという働き方を選ぶ人の増加です。具体的な数字を挙げると、フリーランス人口はコロナ禍前の2018年だと1,151万人ほどでしたが、コロナ禍真っ只中の2021年には1,670万人にも膨れ上がっていました1

こういった流れのなかで、求められるようになったのはフリーランスが安心して、安定的に働ける環境の整備です。この記事では、フリーランス特有のトラブルを防止する目的で可決された、フリーランス保護新法について解説します。

目次


フリーランス新法とは

フリーランス新法とは、フリーランスが安心して、安定的に働ける環境の整備を目指して、2023年5月に公布された新たな法律です2。具体的にはフリーランスの多くが経験する報酬の未払いや遅延を防止し、介護や子育てなどさまざまな事情に配慮のある取引ができるよう、発注者側が守らなければいけない義務項目や遵守項目が定められます。

法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)で、「フリーランス保護新法」と呼ばれることもありますが、本記事では「フリーランス新法」として紹介していきます。

なお、フリーランス新法の施行は2024年秋頃に予定されています。

フリーランス新法が設立される背景

フリーランス新法が設立される背景として、多くのフリーランスがトラブルに直面している実態が浮き彫りになったことが挙げられます。

フリーランスの具体的な困りごとについては、2020年に設置された「フリーランス・トラブル110番」を通してその一部が明らかになっています3。この110番は厚生労働省の取り組みで、委託を受けた第二東京弁護士会の弁護士が、電話・対面・メールで相談に応じる無償のフリーランス専用相談窓口です。

2021年度の相談件数は月350件ほどでしたが、2022年度には月500〜600件になり、2023年になると月平均で750件程度にも増えており、フリーランスの多くがトラブルに直面していることが可視化されました。それにともない、トラブルの内容も浮き彫りになりました。支払いの遅延や未払い、一方的な減額など「報酬の支払い」に関連する相談が最も多く、次が契約書がない、契約内容が明確ではないなど「契約条件の明示」に関連するトラブルでした4

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」ではこういった状況を踏まえて、個人と組織のあいだの取引で生まれやすい格差や、弱い立場になりやすいフリーランスの特性に対応する策として、フリーランス新法が作られたとあります5

フリーランス新法の対象者

ここであらためて、フリーランス新法の対象者の定義を詳しく見ていきましょう。対象者は大きく二つで、「特定受託事業者」と「業務委託事業者」です。

「特定受託事業者(フリーランス)」

フリーランス新法では、フリーランスのことを「特定受託事業者」と呼びます6。聞き慣れない単語ではありますが、フリーランスと同義語であると覚えておきましょう。

特定受託事業者の定義は、以下のとおりです。

  • 週労働20時間以上かつ31日の雇用見込みである従業員を雇っていない
  • 従業員を雇用する企業などから業務を委託されている、または従業員を雇用していない個人事業などから業務を委託されている

フリーランスの中でも、一般消費者から委託を受けたり、不特定多数の人向けに商品・サービスを提供したりする場合には、対象外になります。

「業務委託事業者(発注事業者)」

フリーランスに業務を委託する企業や個人は法律上では、「業務委託事業者」といいます5。業務委託事業の定義は以下のとおりで、個人でも企業でも当てはまります。

  • フリーランスに業務を委託する個人および法人の代表者

従業員を雇っている場合と雇っていない場合、またフリーランスに継続的に業務委託する・しないなどで、守らなければいけない義務項目が変わってくるため、注意が必要です。詳しくは後述します。また業務委託事業者の中でも、従業員を雇用している個人事業主および法人は「特定業務委託事業者」と呼ばれます。

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フリーランス新法の対象となる取引

フリーランス新法の対象となる取引は、あくまでも事業間の業務委託取引です5。業務委託とは、事業者が自身の事業のために使用する物品や成果物をほかの事業者に依頼することを指し、一般消費者を対象としたBtoCの取引は対象に含まれません6

フリーランス新法の7つの義務項目

フリーランス新法では、発注者に対して大きく七つの義務項目を定めています。ここで注意したいのは、発注者が満たす要件によって義務項目が異なる点です。次の章で詳しい要件と義務項目を確認していきましょう。

発注者が満たす要件に応じて、義務項目は異なる

大きく、以下3つのパターンに分かれます。以下の表にはパターンの要件と義務項目を記載しています。どのパターンに当てはまるかを確認しておきましょう6

  発注者の要件 義務項目
パターン1 ☑️フリーランスに業務委託をしている
☑️自社で従業員を雇用していない
①取引条件を明示する
パターン2 ☑️フリーランスに業務委託をしている
☑️自社で従業員を雇用している
①取引条件を明示する
②報酬は60日以内に支払う
④募集情報を的確に表示する
⑥ハラスメント対策の体制を整備する
パターン3 ☑️フリーランスに業務委託をしている
☑️自社で従業員を雇用している
☑️フリーランスに継続的に業務委託をする
①取引条件を明示する
②報酬は60日以内に支払う
③禁止事項を守る
④募集情報を的確に表示する
⑤育児や介護との両立に対して配慮する
⑥ハラスメント対策の体制を整備する
⑦中途解約などをする場合は事前に予告し、理由を明示する

それぞれの義務項目を詳細に見ていきましょう。

(1) 取引条件を明示する

業務委託の発注者は、書面などに取引条件を明確に記載し、フリーランスに提示しなければいけなくなります。以下は記載内容の例ですが、具体的であればあるほどいいでしょう。

  • 委託する業務内容
  • 報酬の額
  • 支払期日
    など

書面による交付または電磁的な方法での提供が選択できますが、電磁的な方法で提供した場合、フリーランスから書面を求められたらすぐに交付しなければいけません。

(2) 報酬は60日以内に支払う

業務の発注者は、支払期日を発注した物品や成果物を受け取った日から60日以内に設定しなければいけません。支払いも、期日内に済ませます。

(3) 禁止事項を守る

発注業者がフリーランスに対して継続的に業務を委託する場合には、以下七つの禁止事項を守ることが義務付けられます7

(1) フリーランスに責任がないにもかかわらず、成果物などを受け取らないこと
(2) フリーランスに責任がないにもかかわらず、発注時に合意した報酬を減額すること
(3) フリーランスに責任がないにもかかわらず、成果物などを返品すること
(4) 通常の相場よりも大幅に低い報酬額を不当に定めること
(5) 正当な理由なしに自社の商品やサービスの利用などを強制すること
(6) フリーランスに金銭などの利益を要求すること
(7) フリーランスに責任がないにもかかわらず、発注内容を変更したり、やり直しなどを要求したりすること

(4) 募集情報を的確に表示する

フリーランスの募集情報を広告などに掲載する場合は、以下を守らなければいけません。

  • 虚偽の内容や誤解を招くような内容でないこと
  • 業務をあらわすうえで正確で、最新の情報であること

(5) 育児や介護との両立に配慮する

育児や介護との両立をできるよう、就労環境についてフリーランスから相談を受けることがあるかもしれません。もし③と同様に、フリーランスに継続的に業務を委託している場合は、こういった事情を考慮して適切な配慮を講じなければいけません。

(6) ハラスメント対策の体制を整備する

フリーランスに対してハラスメントが発生しないように教育体制を整えたり、発生した場合に備えてフリーランスが相談できる窓口を設置したり、発生後の対応の流れを決めたりすることが必要になります。また、フリーランスがハラスメントに関して相談したことを理由に、契約を解除したり報酬を減額したりしてはいけません。

(7) 中途解約などをする場合は事前に予告し、理由を明示する

継続的に業務委託しているフリーランスとの契約を、やむを得ず中途解約しなければいけない、あるいは契約を更新できないこともあるでしょう。契約を解除・不更新する場合には、その30日前にフリーランスに知らせることが義務付けられます。また、フリーランスから解除・不更新の理由開示の請求があった際には、応じなければいけません。

フリーランス新法に違反した場合の罰則

上記で説明した義務を守らないと、どういった罰則があるのでしょうか。

50万円以下の罰金が処される可能性も

義務項目を遵守していないと報告を受けた場合に、公正取引委員会、中小企業庁、または厚生労働省は、違反行為について発注者に以下の対応をします。

  • 助言
  • 指導
  • 報告徴収・立入検査
  • 勧告
  • 公表
  • 命令

そのうえで、命令違反をしたり検査拒否などをしたりすると、50万円以下の罰金に処される可能性があります。

フリーランスがトラブルに遭ったときにできること

トラブルが発生した場合や発注者の対応が不十分だと感じたフリーランスは、以前と同様にフリーランス・トラブル110番に相談できます。また、フリーランス・トラブル110番を介さず、直接法所管省庁(公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)の窓口に申告することも可能です5

フリーランス新法の課題点

フリーランス新法ではさまざまな義務項目が定められ、支払遅延、報酬の未払い、ハラスメント、口約束などで困っているフリーランスが法的措置をとる方法が整備される予定です。ただし課題点が残るのも実情です。大きくは以下の点が挙げられるでしょう。

会社員と比べて格差が残る点も

会社員が受けられる待遇と比べると、まだまだ格差があります。主に指摘されるのは、出産・育児における待遇の格差でしょう。フリーランスだと会社勤務のように、出産や育児の休業に伴う給付金などが支給されることはありません。ただし世界に目をやると、フリーランスに対しても出産・育児休業中の経済的サポートを提供している国があります。スペインが例に挙げられます8。一定期間社会保険に加入していると、休業前の半年間における社会保険の支払額をもとにした金額が支給される仕組みのようです。

日本でもフリーランスの育児期間中の給付制度の創設を検討すべき、という主張9もありますが、まだ具体的な動きは見られていません。

受注者側に任意解除権がない場合も

事情により委託された仕事を受けられなくなることもあるかもしれません。実際にフリーランス・トラブル110番にはこういった相談も多いようです。ただし、委託された業務が「請負契約」と性質決定されると、任意解除権はないとみなされるようです10

Squareでは業務委託契約に役立つツールを無料で提供

Squareではフリーランスをはじめ、業務を委託する発注者にも役立つ機能を無料で提供しています。

Square 契約書

Square 契約書は無料で契約書を作成・送信できる機能です。既存のテンプレートを使うこともできれば、自身のテンプレートを作ることもできます。

業務委託契約書のテンプレートを作成し「支払期日」「業務内容」「報酬額」など毎回記載しなければいけない項目を保存しておけば、契約のたびにいちから作成する手間が省けます。電子署名も可能なため、やりとりもスムーズです。詳しくは「Square 契約書の利用をはじめる」の記事をご参照ください。

Square 請求書

Squareには、クラウド請求書機能のSquare 請求書もあります。必要項目を入力するだけで、請求書を先方のメールアドレスに送れる機能です。クレジットカード決済機能がついているため、先方はメールにあるリンクからクレジットカードで報酬を支払うこともできます。

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また、プロジェクトによっては、段階的に報酬を請求することもあるでしょう。たとえば企業のブランディングを請け負う場合に、ロゴのデザイン、サイトのデザイン、サイトのコピー制作などで分けて報酬をもらうことがあるかもしれません。

こういった場合には「進捗請求機能(※)」を利用すると、一つの請求書の中でそれぞれのタスクに対して個別に支払日を設定できます。それぞれの支払日の直前に先方に通知が送られる仕組みで、支払いスケジュールを明確にできるのが大きな魅力です。

※進捗請求機能は、Square 請求書の有料プラン「Square 請求書プラス」から利用できます。

詳しい方法は「1つのSquare 請求書に対して複数の支払いを設定する」にも記載しています。

Square 請求書がめんどうな請求業務を自動化・効率化

Squareなら請求書の作成から送信までたった数分で完了。毎月の自動送信や、支払い前日のリマインダーなどの便利機能で、めんどうな請求業務を大幅に削減します。

この記事では2023年5月に公布されたフリーランス新法について説明してきました。トラブルの発生を防ぐと当時に、トラブル時に適切な処置がとれるよう、発注業者はもちろん、フリーランスも義務項目の内容を把握しておきましょう。


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執筆は2024年7月1日時点の情報を参照しています。当ウェブサイトからリンクした外部のウェブサイトの内容については、Squareは責任を負いません。Photography provided by, Unsplash